全国的に官民共創の必要性が高まる中、札幌市と同様に官民共創に取り組む自治体と、官民共創を実践・推進しているゲストにお集まりいただき本イベントを開催しました。
官民共創を推進する企業や専門家による講演や、各都市の担当職員によるトークセッションを通じ、官民連携の現状と可能性について、官民双方の視点から考える機会となりました。本レポートでは、その概要をお伝えするとともに、イベントの内容を振り返ります。
フォーラム概要
| タイトル |
官民共創イベント2026 ~政令市・先進企業と考える「共創」による事業創造の可能性~ |
|---|---|
| 主催 | 札幌市・合同会社デロイト トーマツ 協力:仙台市・川崎市・北九州市 |
| 日時 | 2026年7月30日(木)15:00~18:30 |
| 会場 | Deloitte Tohmatsu Innovation Park |
アジェンダ
- 開会挨拶
- 基調講演
- 企業講演
- 自治体トークセッション
- 閉会挨拶
開会挨拶

登壇者
合同会社デロイト トーマツ パートナー
伊東 真史 氏
デロイト トーマツからは、官民共創や地域の課題解決における考え方や具体的な取り組み事例が共有されました。単一の組織では解決が困難な社会課題に対し、多様な業種や立場の人々を巻き込んで共通のゴールを創出し、その実現に向けて共に動く重要性が語られました。企業には投資回収や人員投入など多くの悩みがあるなかで、まずは小さく始め、成功を積み重ねることが次の展開への足掛かりになると述べられました。
具体的な事例としては、日本の伝統文化や職人技の価値を未来へ継承するプロジェクト「GIV(ギブ)」が紹介されました。静岡県のお茶産業や伝統農法の継承に関する相談を契機に、自社オフィスで提供するウェルカムドリンクを見直すなど、身近なアプローチを通じて地域の価値を発信・還元する取り組みを始めています。
また、官民や業種・世代を超えて共通の未来像を描く「夜明け会議」の取り組みにも触れられました。昨年は、2040年の日本の未来をテーマに議論を重ね、若者の旅行機会を支援する仕組みの構築や、食・健康を通じた社会保障費抑制に向けた社会実装など、具体的な取り組みも生まれています。
最後に、官民共創に100%の正解を求めるのではなく、できそうなことから第一歩を踏み出し、その可能性を共に育んでいくことの重要性を強調されました。デロイトトーマツも挑戦者として、今後も行政、企業、地域との新たな共創の機会を広げていきたい旨が述べられました。
基調講演

登壇者
株式会社グラビス・アーキテクツ 代表取締役社長 札幌市市政アドバイザー
古見 彰里 氏
公共機関や自治体、民間企業の業務改革およびデジタル化支援に長年携わってきた視点から、これからの地域経営や官民共創のあり方について語られました。人口減少や高齢化、AIの進展等に伴い社会構造が大きく変化する中、地域課題は行政のみで解決し得るものではなく、企業や教育機関、地域の担い手が立場を超えて参画する必要性が示されました。地域の未来を誰が考え、誰が担うのかという「問い」を、一人ひとりが自分ごととして捉えることの重要性が提起されました。
自治体は、交通、水道、医療、教育、防災、不動産など多様な機能を有する複合事業体としての側面を持ち、そこには民間企業の知見やマーケティングの発想を活かせる余地が多く存在します。公共施設や地域資源の利活用、観光コンテンツの開発、デジタル技術を活用したサービス創出など、官民が連携することで新たな価値や市場を生み出すことが可能です。行政の持つ「公共性」と企業の持つ「事業性」を掛け合わせることが、これからの地域経営において極めて重要となります。
また、2040年に向けて高齢者人口がピークを迎える中、これまで地域や家族が担ってきたセーフティネットの希薄化が懸念されています。行政のみで多様化する社会課題を支え続けることは困難であり、自助や公助に加え、企業や地域が関わる「共助」を再構築していく必要性が強調されました。官民共創は単なるビジネス機会の創出にとどまらず、持続可能な地域社会を形成するための不可欠な仕組みと位置付けられます。
官民共創は一過性の取り組みではなく、地域が自立的に未来を見据え、必要な仕組みを自ら構築していくための重要な考え方です。行政と民間が互いの文脈を理解し、政策立案や事業創出に共に関わることで、地域の経済循環や新たな「共助」の形を生み出すことができます。地域の未来を他者に委ねるのではなく、自ら問いを立て、主体的にまちづくりを進めていく姿勢が、これからの時代に強く求められていると締めくくられました。
企業講演

登壇者
KDDI株式会社 地域共創・SX推進本部 地域共創推進部 事業推進グループ グループリーダー
小泉 安史 氏
パーソルテンプスタッフ株式会社 地域共創企画室 室長
立山 正道 氏
読売テレビ放送株式会社 ビジネス局 ビジネスソリューション部長
髙栁 康 氏
民間企業連携アライアンス「YORIMIRAI」のセッションでは、地域課題の解決を一過性の実証実験やイベントで終わらせず、持続可能なビジネスとして成立させるためのアプローチや具体的な事例が紹介されました。実証実験の開始時や報道時が取り組みのピークとなり、その後の予算や体制の都合から継続が困難となる官民連携の事例も少なくありません。社会性のみでは事業が継続せず、収益性のみでは地域に受け入れられないという課題意識のもと、同アライアンスでは「社会性」「収益性」「実行を担う人材」の3要素が揃ったプロジェクト形成を重視しています。
地域課題をビジネスとして成立させるためには、課題をそのまま解決策に当てはめるのではなく、企業が参入可能な「事業機会」へと翻訳するプロセスが不可欠となります。その上で、持続可能な収益モデルの設計、参画企業が持つアセットの組み合わせ、そしてプロジェクトを推進する伴走人材の存在が重要となります。YORIMIRAIでは、プロジェクトの創出から推進、事業化、地域への定着までを一貫して支援し、地域と企業の目的や役割を整理しながら、取り組みが停滞することなく進み続ける仕組みづくりを目指しています。
具体的な取り組み事例として、宮崎県における「食」のプロジェクトが共有されました。同県が誇る魅力的な食材について、素材のままでは単価が上がりにくく生産者の十分な収益に結びつきにくいという課題に対し、単なる地域産品の応援にとどまらず、生活者に選ばれる付加価値の高い商品へと昇華させる取り組みを展開しました。県内の大学生が生活者視点で商品を企画し、アンケート検証を通じて案を磨き上げるとともに、参画企業のノウハウや流通網を掛け合わせることで、実販売・事業化へと繋げた実績が紹介されました。
自治体トークセッション

登壇者
仙台市 まちづくり政策局 政策企画部 プロジェクト推進課 規制改革推進担当係長 山口 進 氏
川崎市 総務企画局 共創推進室 共創推進担当課長 野村 有紀子 氏
北九州市 財政・変革局 市政変革推進室 次長 安徳 一紀 氏
札幌市 まちづくり政策局 政策企画部 公民・広域連携推進室 推進課長 寺田 理紗
モデレーター
合同会社デロイト トーマツ Social Design シニアマネジャー 小田 剛 氏
概要
小田氏をモデレーターに迎え、札幌市、仙台市、川崎市、北九州市の官民連携担当者が登壇し、各都市における課題や連携事例、民間事業者への期待などについて率直な議論が交わされました。


「自治体が重視しているのは官民連携の質か?量か?」についてでは、提案の受け止め方や官民連携の今後の方向性について多角的な意見が出されました。提案の裾野を広げ、民間事業者との接点を増やす「量」の重要性が挙げられた一方、提案件数の増加が直接的に成果に結びつくわけではなく、「質」をどう高めるかが重要だという指摘もありました。さらに、最初から完成度の高い提案を求めるのではなく、対話を通じて実現可能な形へと磨き上げていく姿勢の必要性も共有されました。「質」と「量」を二者択一で捉えるのではなく、幅広く提案を受け止めたうえで、継続的な対話のなかで連携の質を高めていくことの重要性が強調されました。
「窓口がぶつかっている壁と協業ポイント」についてでは、民間事業者からの提案を、現場のニーズを踏まえ、庁内の適切な担当部署へ繋ぐ「翻訳者」としての官民連携窓口の役割について語られました。日頃から庁内各部署の職員とコミュニケーションを取り、現場の課題やニーズを把握しておくことの重要性が示されました。さらに、民間企業との協業のポイントとして、「対話の余白を残した提案」が挙げられました。すでに完成された提案よりも、窓口や担当部署と対話を重ねながら、共に作り上げていける提案の方が事業化に繋がりやすい事が共有されました。はじめから完璧を求めるのではなく、対話を重ねる中で互いに歩み寄りながら質を高めていく姿勢が官民共創における重要な鍵であるとまとめられました。
閉会挨拶

登壇者
札幌市まちづくり政策局政策企画部 公民・広域連携推進室長
玉井 和史
札幌市官民連携窓口「SAPPORO CO-CREATION GATE」を開設した2年前と比較し、官民共創の機運は全国的に確実に高まっており、札幌市においても、年間170件を超える民間提案を受け付けるなど、着実な進展が図られている現状が語られました。
一方で、行政として官民共創の推進に向けた努力や改善の余地があるという課題意識についても言及し、今後も他都市と連携を図りながら官民共創の可能性を広げていきたいと振り返りました。
札幌市では、引き続き共創を通じた事業創出に積極的にチャレンジしてまいります。
