
株式会社調和技研 代表取締役社長中村 拓哉様
(札幌AIラボ 事務局長/札幌AI道場 総師範)
【中村様プロフィール】
1986年慶応義塾大学商学部卒。北海道拓殖銀行、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社を経て2011年に調和技研に参加、代表取締役社長に就任。公益社団法人日本青年会議所「最先端技術が拓く未来フォーラム」、NTTデータ経営研究所「田舎×最先端テクノロジーによる新たな地方創生モデル」、北海道経済産業局 ロボット関連ビジネス新規参入促進シンポジウムなど、AIの業務導入や地域活性化に関する講演多数有り。札幌AIラボ 事務局長、札幌AI道場 総師範として、産学官連携による産業活性化や人材育成にも尽力。
調和技研の設立のきっかけを教えてください
調和技研は、2009年に北海道大学の調和系工学研究室からスピンアウトして誕生しました。当時、私は大手情報系企業に勤めており、大学訪問の中で研究室の鈴木先生(Co-founder。現公立はこだて未来大学 学長)と川村先生(Co-founder、北海道大学)と出会いました。二人の研究に大きな可能性を感じ、一緒に面白いことができるのではないかと参画を決意しました。
最初は苦労の連続でしたが、AI技術が浸透するにつれて首都圏の企業からの研究開発の依頼が急増し、会社も着実に成長。5年ほど前からは、外部資金の調達や人材採用、組織体制の強化に取り組み、更なる発展に挑戦しています。
会社の強みや特徴はどのようなところでしょうか?
現在当社は、AIに関するコンサルティングから開発・導入支援までをワンストップで提供しています。特筆すべき強みは、大学のAI研究室との連携も豊富で、学術レベルの高度な技術力を有していることです。言語系、画像系、数値系の3つの領域におけるAIエンジンの開発と運用を手掛け、これらを組み合わせることで複雑な課題にも柔軟かつ迅速に対応できます。創業以来150を超えるAI開発実績があり、多種多様な業種・領域の課題解決に貢献してきました。これほどの開発実績を持つスタートアップは国内でも稀有な存在だと自負しています。

人材の育成や地域のコミュニティづくりにも力を入れていますね
多くのスタートアップは特定のプロダクトの開発に集中する一方、私たちは大学発ベンチャーとして、AI技術を社会に役立てることを使命としています。そのため、技術開発はもちろん、その担い手となる人材を育成や、これまで東京に流出していた高度人材の受け皿となることも重要な役割だと考えています。
私たちが目指すのは、AIとの調和により人々がクリエイティビティを発揮させ、自由に生きられる社会の実現です。そのため、社内でも社員それぞれが自分の強みを生かし、クリエイティブに働ける環境づくりを心がけています。
さらに、一企業の枠を超えて地域全体の人材育成にも取り組んでいます。2017年には、道内外のIT企業や大学、札幌市と連携し「札幌AIラボ」(SAPPORO AI LAB)という産学官連携のコミュニティを立ち上げました。この活動の一環として、「札幌AI道場」というAI技術の実践的な学びの場をつくり、当社が事務局となり運営しています。
●札幌AI道場 | SAPPORO AI LAB(札幌AIラボ)
→https://www.s-ail.org/ai-dojo/
「札幌AI道場」の取組について教えてください。
札幌AIラボでは、当初からAI人材育成を重視して、様々な育成プログラムを行ってきましたが、座学中心で実践機会が限られているという課題がありました。そこで、2022年に道内の大学や高専、札幌市と連携して「札幌AI道場」を開設しました。
道場では、企業から実際の課題と実データを提供してもらい、およそ6か月間かけてチームを組んでAI開発のPoC(概念実証)に取り組んでいます。例えば、地域の餃子屋さんのチルド餃子の良品と不良品を判別するシステムを開発するなど実践的な開発経験を積める場となっています。
「札幌AI道場」の成果や今後の展望があれば教えてください。
「札幌AI道場」は、今年度で3期目を迎えました。2期目からは学生向けコースや外国人材向けコースも加わり、これまでに総勢約140名を超える方々に参加をいただいています。修了生の中には実際の開発案件で連携協業するケースも生まれ、企業側でもPoCから実際のプロダクト開発に進むケースも増えています。さらに、開発した教材やノウハウは、道内外の高専や教育機関等にも共有し、地域を超えたAI人材の育成にも貢献しています。
さらに、AI道場で培われた「学び」をリアルな「ビジネス」へ発展させ、急拡大する国内外のAI開発案件に地域企業が連携して対応できるよう、開発プロジェクトのコーディネートやパートナー間の交流機会等を行う「SAPPORO AI Collaboration Hub」という支援制度も立ち上げたところです。これらの取組を通じて、札幌で育成された人材が質の高い仕事を創出し、地域の産業発展につながる―そのような持続可能なエコシステムの形成を目指していきたいです。

札幌北海道における産学官連携について、どのようにお考えでしょうか?
調和技研がまだ小さく苦労していた頃から、札幌市の職員の方々に気にかけてもらいました。特に、札幌AIラボの立ち上げ時には、札幌市などの声掛けで約100人がイベントに集まり、スムーズな発足を後押しいただきました。
札幌AIラボは「産学官連携」は掲げていますが、堅苦しい枠組みにとらわれることなく、何気ないカジュアルな会話から新たな取組が生まれることが多いと感じています。私も直接会って話すことを大切にしており、こうした交流が信頼関係の基盤になると考えています。
札幌の強みは、民間企業や大学、行政の距離が近く、顔の見える関係が築きやすいことです。この距離の近さが、スムーズな産学官連携を支えているのではないでしょうか。
AIによる課題解決の可能性について、どのようにお考えでしょうか?
北海道は課題先進地域といわれているようにAIによる課題解決の可能性が高い地域です。例えば、道内の昆布の食品製造業者から品質判定をAIで支援できないかという相談をいただいたことがあります。生産者の高齢化や担い手の不足が進む中で、このような問題は待ったなしの課題です。さらに、半導体産業との連携や、農業・漁業分野でのAI活用も進んでおり、北海道ならではの課題解決にAIが大いに貢献できると感じています。
こうした課題に対応するためにも、重要となるのは「人」です。AI道場をはじめとする人材育成の取組をさらに拡充し、より多くの企業や札幌市との連携を深めていきたいと考えています。
インタビューを終えて
北大発スタートアップの調和技研を経営する傍ら、札幌AIラボの事務局長も務め、産学官の共創を実践する中村様から、AI開発や人材育成の取組、そして札幌北海道のAI活用の可能性についてお話をお伺いしました。AIを起点としたエコシステムやコミュニティ形成についても今後の発展が楽しみです。