100年以上前から続く化学の常識を塗り替える
有機化学合成は、私たちの暮らしに欠かせない医薬品や身の回りのものを作りだすために不可欠なテクノロジーです。しかし、過去100年以上もの間、石油系溶媒を大量に消費し、廃棄後に焼却するため二酸化炭素も多く排出するという欠点がありました。
北大大学院の伊藤研究室で確立されたメカノケミカル有機合成は、機械的な刺激による攪拌で従来の化学合成反応と同様の反応を起こすことができます。従来の溶媒系合成反応に比べ、有機溶媒の使用量を大幅に削減しながら、反応の高速化、操作の簡素化、コストダウンを可能にしました。
私たちは、有機化学の新しい扉を開く革新的なメカノケミカル有機合成の技術の産業化、社会への普及、化学プロセスの脱炭素化を実現するため、メカノクロスを設立しました。
北大施設内にラボを開き研究から実用化へ
メカノケミカル有機合成の技術は、これまでは不可能だった有機溶媒に溶けない不溶性化合物の反応にも応用でき、半導体や太陽電池、有機ELディスプレイの製造、新素材の開発に役立つことでも注目されています。さらに、液体の有機溶媒を用いることができない宇宙空間でのものづくりにも生かすことができます。革新的な取り組みが評価され、 起業して融資、出資を併せて、初期の資金調達で2.5億円の資金を調達することができました。
また、北大からの支援も受け、北海道大学内の化学反応創成研究拠点(WPI―ICReDD)内にラボも開設できました。既に、医薬品づくりで最も使われている10から20の化学合成反応については技術が確立できています。 今後は、調達資金を生かして、メカノケミカル有機合成の量産化技術の確立を目指します。
さらにニッチで費用対効果の高いものの化学合成にも取り組みながら、装置メーカーと攪拌装置の共同開発も行い、一度に100㎏、もしくは、少量の装置をいくつか並べるナンバリングアップによる量産化が可能な技術や装置を2年間で実現し、製薬会社などのニーズに応えられる体制を整えていきたいと考えています。
上場支援で企業価値を上げ、次の世代のロールモデルに
設立から1年を待たずに、企業との協業、業務委託を開始した案件もあります。
私たちは、協業のパートナーとより強い信頼関係を築き、さらなる企業価値のアップを図るため、株式上場を検討し始めていました。そのタイミングで、札幌市の未来牽引企業創出事業の支援制度を知り、応募しました。今回の支援事業を通じて、企業としての盤石な組織づくりに取り組んでいきたいと考えています。
近年、メカノクロスの出発点となった北大から、ベンチャー起業やスタートアップを目指す人が増えています。株式上場を果たすことで多くの学びを得て、これから起業を目指す若い世代にとって、具体的なロールモデルや相談役となり、貢献したいと考えています。
また、次世代との交流から、これからのビジネスを担う頼もしい仲間も増えると確信しています。私たちが行う起業の後押しは、スタートアップ推進に力を入れている札幌市への貢献にもつながるのではないでしょうか。
私たちしかできない材料を、世界へ届ける
メカノクロスでは2030年を目標に、国内で行われる化学合成プロセスの10%をメカノケミカル有機合成に置き換えることを中期的な目標としています。地球環境に優しいサスティナブルな化学合成技術は、環境意識の高いヨーロッパでも高い関心を集めています。今後、メカノクロスでは化学系企業と協働しながら、ヨーロッパにも営業活動を広げていく予定です。
「20年先を見据え、知財戦略に強い人材をスタッフに加え、外貨を稼げる会社へと成長させたいと考えています。
さらに、メカノクロスでは『ドクターを目指し、専門性を高めたい』という社員には、資金提供や学びと仕事の両立を支援する勤務体制などを整えています。
志を共にし、同じ目標に向かって進む仲間が増えることで、ヨーロッパがぐっと近くなるように感じます。近い将来、札幌から先端研究が生まれると、世界中の人々に言われると確信しています。」と、齋藤社長は意欲的に語ります。